海外に腹式呼吸は有るのか?前編では、腹式呼吸の英語表記のうち
Abdominal breath(お腹の呼吸) と Belly breath(お腹の呼吸)について書きました。
今回は残るDiaphragm breath(横隔膜の呼吸)についての内容となります。
前回までの記事をお読みでない方は、お読みになってから先に進むと理解が深まります。
セス・リッグスの呼吸法
20年以上前のことですが、
アーティストの広瀬香美さんがボーカルスクールを立ち上げたときに、私はそのスクールの発声テキスト制作に携わっており、その時広瀬さんから「これを参考になさって下さい」と紹介された本が『セス・リッグスのボイストレーニング理論』でした。
前述しましたが、アメリカの業界の大御所です。
最近はハリウッド式なんたらメソッドみたいな発声法の広告塔みたいになっていますので、皆さんの中にもご存じの方がいらっしゃると思います。
マイケルジャクソンのトレーナーとしても有名です。
とても興味があったので早速読みましたが、
最初の「呼吸」のところで「?」となりました。
出てくる言葉は、
「deep breath」だけ。
そして「chest(胸)」「lung(肺)」「Diaphragm(横隔膜)」。
腹式呼吸という言葉はどこにも出てきていません。
「deep breath」=深呼吸です。
深呼吸で息を吸い、肺が膨らみ、胸が広がり横隔膜が収縮し下へ下がる。
横隔膜が戻ろうとする(緩もうとする)力を息の圧力に変える。
というような記述でした。
至ってシンプルなものです。
Diaphragm breath(横隔膜呼吸)について
セス・リッグス氏のメソッドには当時Diaphragm breath(横隔膜呼吸)という言葉は出てきません。
ちなみに英語wikiでは、
Diaphragm breath(横隔膜呼吸)とDeep breath(深呼吸)は同列に記載されています。
横隔膜呼吸と深呼吸に違いはないということですね。
肺に息が入る=横隔膜が下がる、ですから、
セス・リッグス氏の「肺が膨らみ、横隔膜が下がる」という表現はまあOKラインとしましょう。
実際は「横隔膜が下がって、肺が膨らむ」のですが・・・。
どういうことかと言いますと、
横隔膜を下げるのは「息を吸う」という意識(脳からの指令)であって、
「横隔膜を下げよう!」という直接的な意識ではありません。
息と連動させずに横隔膜だけを動かそうとしても横隔膜は動きません。
ここの不理解が「横隔膜は不随意筋」だという勘違いを起こすのです。
復習しましょう。
腹式呼吸は「息を吸った時にお腹を出す」ですから、
腹筋などによりお腹を出すことで横隔膜が下がるのを内臓が邪魔しないようにする。
横隔膜が下がるのとお腹が出るのを連動させ、横隔膜が動くのを補佐しましょう。
というものです。
一方、
Diaphragm breath(横隔膜呼吸)は、これとは少し違って、
肺が膨らみ、横隔膜が下がる。その結果(勝手に)お腹が出る。
お腹を出す意識は本来必要ないはず。
という呼吸法です。
かなり自然呼吸に近いものですね。
Diaphragmはイタリア語では「diaframma」と言いますが、横隔膜のことです。
オペラの発声の場合、
横隔膜などにより本来陰圧の胸腔内を陽圧に変える必要がありますから、
「横隔膜」がことさらクローズアップされるのは致し方ありません。
しかしこのDiaphragm breathという言葉、よくよく考えるとおかしな言葉です。
横隔膜は筋膜なので、横隔膜には息は入りませんからね。
「横隔膜に吸って!!」って・・・。
聞いてる方が恥ずかしくなってしまいます。(゜▽゜=)ノ彡☆ギャハハ!!
ではこの
Diaphragm breath(横隔膜呼吸)は歌の時に使用すべき呼吸なのか?
はい、使用して大丈夫です。
横隔膜が緩むときに上へあがる力を息の圧力に変えましょう。
ではこの
Diaphragm breath(横隔膜呼吸)はベルカントの呼吸なのか?
それが違うのよ。
時代(生活様式)を考えましょう。
イタリア人でも気付いてるのはごく少数なのかも。
これがイタリア内でも「ベルカントは失われた論争」が生じる原因の一つなのでしょうね。
これについては別記事で。
今は先に進みましょう。
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